2018年12月1週
《マーケットストラテジーメモ》12月1週
【推移】
【推移】
3日(月):
週末のNY株式市場は上昇。「G20に合わせて開催予定の米中首脳会談で、貿易摩擦解消に向けた進展があるとの期待が追い風」との解釈だ。NASDAQとS&P500の週間上昇率は約7年ぶり、NYダウ平均の上昇率は約2年ぶりの大きさとなった。「市場が注目する懸案は3つ。FRBのハト派色が今後強まるか。米中貿易関係がどのように展開するか。原油市場の動向」という声が聞こえる。
日経平均株価は223円銭高の2274円と7日続伸。9月の8日続伸以来の上昇記録だ。米中首脳会談で中国への追加関税が当面猶予されたことを好感。買い戻しと裁定買いを交え前面高の展開。ソフトバンク、リクルートが上昇。キッコーマン、中外薬が下落。
4日(火):
週明けのNY株式市場は続伸。米中首脳会談で貿易摩擦問題は執行猶予。解消への取り組みを進めることを好感し貿易摩擦激化への警戒感が後退。
幅広い銘柄が買い物優勢となった。中国製品への追加関税引き上げなどを90日間猶予するという「貿易戦争の一時休戦で折り合った」との解釈だ。
トランプ大統領が「中国が米国の自動車に課している40%の関税の引き下げや撤回で同意した」とツイート。これも好感された。NYダウは終値ベースでは287ドル高だったが一時上昇幅は440ドル高まで拡大。11月上旬以来約週3週間ぶりの水準を回復した。
もっとも利益確定売りも見られ上昇鼻を130ドル前後まで縮小した場面もありボラの高い動きとなった。
日経平均株価は538円安の22036円と8日ぶりの反落。7日続伸で1000円上昇していたことからの利益確定売りに押された。NYダウの夜間先物の下落も悪材料視された。コニカミノルタ、ドンキが上昇。ファーストリテ、ファナックが下落
5日(水):
NY株式市場は急反落。主要3指数はいずれも3%超の大幅安となった。国債利回りの低下やイールドスプレッドの縮小などを警戒。貿易摩擦を巡る不安も再燃したとの解釈だ。
FRBの利上げ見通しに関する当局者発言や、英国のEU離脱案を巡りメイ政権が逆風に直面していること。これらも見え始めた格好で悪材料視。
S&P500は1日として約2カ月ぶりの大幅な下落率。小型株中心のラッセル2000は4.4%安と、約7年ぶりの大幅下落。ダウ輸送株指数は4.4%安と2016年6月以来の大幅下落。
10年債利回りは2.91%台と9月半ば以来の水準に低下。10年債と2年債の利回り格差は過去10年余りで最も小幅な水準に縮小。2年債と3年債の利回りは5年債利回りを上回り、一部の年限で逆イールド(長短逆転)となった。
日経平均株価は116円安の21919円と続落。22000円を下回り11月26日以来の安値水準となった。もっとも一時300円あまり下げた場面もあったが一巡後は食品や電力など景気動向に業績が左右されにくいディフェンシブ株に買いが入り下落幅を縮小。今夜のNY株式・債券市場などが休場となるため徐々に様子見ムードが強まり、相場は膠着感を強めたとの見方だ。武田薬、ソフトバンクが上昇。三菱ガス、TOWAが下落。
6日(木):
NY市場はブッシュ元大統領追悼で休場。地区連銀経済報告(ベージュブック)は「関税措置に関連した物価の上昇はより広範に拡大。全体としては全国の大部分の地域でインフレは控えめなペースで上昇した」で着地。欧州市場は続落。
Quick調査の11月30日時点の信用評価損率は▲10.57%と2週連続の改善。裁定買い残は1071億円増の1兆1680億円。3週ぶりの増加となった。裁定売り残は228億円減の5718億円。こちらは3週ぶりの減少。空売り比率は46.5%と3日連続の40%超。空売り規制なし銘柄の比率は7.5%とほぼ限界値。
日経平均採用銘柄のPERは12.28倍でEPSは1784円。日経平均株価は417円銭安の21501円と3日続落。10月30日以来1カ月ぶりの安値水準となった。中国のスマホメーカーのファーウエイの幹部逮捕の報道を悪材料視。アジア株の軟調も重荷となった。イオン、ユニー・ファミマが上昇。ソフトバンク、日産自が下落。
7日(金):一時800ドル近く下落して79ドル安とボラ高く不安定な展開。NASDAQはプラスに転じた。3市場の売買高は105億株と拡大。「異例の週半ばでの休場のせい」という見方もある。FRB当局者が「今月のFOMCで予想されている利上げを決定した上で、様子見姿勢のシグナルを送るかどうか検討している」とコメント。
これは好材料視された格好。10年国債利回りは2.8%台と3ヶ月ぶりの低水準。原油先物は約3%下落。貿易収支の赤字額は前月比1.7%増の554億8800万ドル。金額ベースで2008年10月以来10年ぶりの高水準。市場予想は550億ドルだった。貿易赤字の拡大は5カ月連続。「トランプ政権は赤字縮小に向けて輸入関税対策を導入したが、こうした政策に効果がなかった」という見方だ。日経平均株価は177円高の21678円と反発。前日のNY株式の下げ渋りを好感。内需関連セクター中心に買い物優勢の展開。後場は日銀のETF買い観測も聞かれた。ファーストリテ、JR東海が上昇。ソフトバンク、日立建機が下落。
(2) 欧米動向
俄に登場してきたのが「逆イールド」。
長期債の利回りが短期債を下回ったことは株安の原因との解釈だ。
10年国債と2年国債の利回りは07以来11年年ぶりに低水準。
2年債と5年債は逆転した。
長期債は「景気減速の表現」。
これが悪材料視された。
逆イールド観測→景気減速懸念→長期債買い→さらなる長短利回り縮小。
もっともらしく聞こえる論法だ。
しかし10月に10年国債利回りは上昇し3.2%を越えた時に株は下落した。
今回は10年国債利回りが2.9%に低下して株が下落した。
金利が上がった時にも下がった時にも相場はそれなりの写り方をするもの。
しかしどちらかの解釈が間違っていたというい声は聞こえないから不思議な場だ。
折々の正論らしきものに接していると正論が見えなくなってくる。
(3)アジア・新興国動向
「米中貿易摩擦休戦」。
90日の冬休みで歩み寄りができるかどうかが課題となった。
中国の「中国製造2025」を突き崩したいトランプ大統領。
関税の話ではなくココがポイントだ。
そして求めているのは次の課題の解決。
(1)技術移転の強要
(2)知財保護
(3)非関税障壁
(4)サイバー攻撃
(5)サービス・農業
かつての日米貿易戦争はモノに主導権争い。
結果的に日本の譲歩が円高をもたらし、最終的にはバブルに向かったのが歴史。
モノを買うということで解決し、残渣のおまけがバブルだった。
しかし今回は必ずしもモノが対象とは限らない。
情報そして技術の覇権争いが本質ということ。
サイバー攻撃もデータ盗用もものではなくソフト。
しかし、ここの覇権が未来の地球の覇権になることは間違いない。
軍事技術を転用したのがインターネットという重い事実と歴史は忘れてはならない。
この覇権と考えれば、米側は自動車や繊維とは違って譲歩のジの字もないはずだ。
【展望】
スケジュールを見てみると・・・
7日(金):景気動向指数、米雇用統計、ミシガン大学消費者信頼感、独キリスト教民主同盟党首選挙
週末:中国貿易収支、消費者・生産者物価
10日(月):7〜9月GDP改定値、景気ウォッチャー調査、臨時国会会期末、
11日(火):法人企業景気予測調査、マネーストック、米生産者物価、独ZEW景況感、英議会はEU首脳会議で決定した離脱合意案の採決
12日(水):機械受注、国内企業物価指数、米財政収支、消費者物価指数
13日(木):都心オフィス空室率、米輸出入物価、EU首脳会議(〜14日)、ECB定例理事会
14日(金):メジャーSQ、日銀短観、米小売売上高、鉱工業生産、中国各種経済指標
【12月】
7日(金)米雇用統計、水星順行開始、変化日
10日(月)GDP改定値、貿易収支、ノーベル賞受賞式(ストックホルム)、株安の日
13日(木)EU首脳会議、ECB理事会、変化日
14日(金)日銀短観、メジャーSQ、株安の日
18日(火)米FOMC(〜19日)
19日(水)日銀金融政策決定会合(〜20日)、ソフトバンク通信小会社上場、変化日
23日(日)満月、東京タワー開業60周年
24日(月)天皇誕生日の振替休日で休場
25日(火)クリスマスでNYロンドン休場、年内受け渡し最終日、変化日
26日(水)ボクシングデーでロンドン休場、上げの特異日
27日(木)株高の日
28日(金)失業率、大納会
30日(日)「TPP11」が発効
31日(月)ニューイヤーズイブでロンドン市場短縮取引
月内:税制大綱とりまとめ、19年度予算案策定
結局はイベント後の逆回転。
11月6日の米中間選挙。
5日前の10月30日から投開票日まで日経平均は3.2%の上昇。
ところが中間選挙の5日後には1.5%の下落。
「材料出尽くし」となった。
ブレグジットの2016年6月。
英国国民投票までの5日で日経平均は5%超の上昇。
投票5日後は4%下落。
16年11月の米大統領選挙では1.5%の下落後トランプ政権誕生で2.9%上昇。
今回は直前5日で3.3%の上昇。
だから「目先は反動安」という解釈だ。
火曜の日経朝刊「スクランブル」の見出しは「ESG投資、変調の兆し」。
2016年以降ESGに率先して取り組んできたカルパース(カリフォルニア州職員退職者年金基金」。
運用資産39兆円。
日本への投資残高は約1兆円。
トヨタに気候変動対策を要請したのは昨年だった。
ところが来年1月ESG投資を手動してきた理事が退任。
後任はESG反対派が就任するという。
役員選挙で台頭したのは「ESGは加入者に恩恵をもたらしていない。
カルパースの投資収益がESGによって抑えられている。
そして退職者の年金生活を脅かしている」。
たばこや火力発電などの企業への投資の自粛よりも、求めるのは「投資リターン」ということ。
ならば理念先行の投資よりもリターン重視のシナリオ。
相場を理念で乗り切ろうなんて姑息な手段は学者の世界の話。
実務家は当然「リターン重視」でなければならないのは自明の理だ。
「ESGだから収益があがるのではない。
ESGは企業継続の最低条件だ」。
長年言い続けてきたことが実証されてきたような気がする。
相場はお題目ではないのである。
欲望に裏打ちされたマネーの鉄火場である以上、学者のような悠長さは敬遠されるべきだ
(兜町カタリスト 櫻井英明)