「もろもろ」
「もろもろ」 |
その昔、市場関係者は小型材料株ばかりを語っていた。
誰もが知らないような小さな銘柄を持ち出してああだこうだと。
確かに変動率は高く、上がる時は驚きを伴って上昇した。
しかし波が去ったらそれまで。
その後復活の兆しなど見られず、アッと言う間に市場からは忘れ去られた。
そんな風潮に嫌気が差し、流動性の高い大型銘柄ばかりを取り扱った時期もある。
しかし、大型だからと言って安全安心である筈がなく、流動性があっても下落時には同様に下げた。
そして上がる時は誰よりもゆっくりと上昇するもの。
ある時からこの縛りを解いた。
不思議と注目株が大幅高、逆行高することが増えた。
ここ数年心がけているのは「見たことも聞いこともなく、ましてや行った事のない銘柄は取り扱わない」。
この方針を「稼足」と称している。
誰もが名前は知っている大型銘柄をああだこうだと床屋談義のように繰り返すよりはよほどいい。
それでも、株価というものは加茂の流れや叡山の僧のようにママならないものだが・・・。
辛口の先輩氏のコメント。
「昨日は雨が降ったから天気が悪かった、などという発言に何の意味があろうか?
明日は雨が降らなければお天気だ、くらいしか言えないのではないか?
所詮相場なんぞは誰にも分からない」。
一理ある。
そういえば・・・。
過去に饒舌に振り返ってみると、弱気が身上の人たちが強気に転向した時はたぶん要注意。
強気者の強気は、ままあることだが、弱気者が強気になるということはそれこそ目先天井感の印象。
弱気は弱気のままでいてくれた方が市場の安心感につながる。
ある市場関係者の癖は「上昇基調の銘柄の押し目狙い」。
彼らは「中長期上昇基調だが、目先は下落局面の銘柄」に注目することが多い。
しかし、1週間先の株価の上下で勝負をしている場合はこれでは間に合う可能性が少ない。
今下落基調の株価が5日で変わるかどうかといえば結構難しいもの。
今上昇基調の銘柄の反落の可能性よりも、時間がかかる筈。
もっとも、この長期上昇目先下落基調の銘柄は選択しやすいことは間違いない。
目先の高値を覚えているし、それよりも安いのだから自分に対して説明がつけやすい。
ただし多くの人が嵌る呪縛でもある。
極端な安値圏ならイザ知らず、下がっている銘柄よりも上がっている銘柄の方が更に上がりやすいもの。
「株は安い時に買えば儲けやすいもの」だが、しかし時間がかかるという覚悟は必要だろう。
企業取材を日々行っている。
それに基づいて市況観測をする時間軸は個人的には概ね3ヵ月から半年程度。
しかし、機関投資家などの運用軸は何年にも渡っている。
一方で市場が求めている時間軸は今日か明日かせいぜい1週間程度。
このギャップはなかなか埋まりそうもない。
「明日動く銘柄」、「今動く銘柄」なんてものが望まれる状況。
3ヵ月はおろか、3年後に動いている銘柄なんて陳腐でしょう。
逆に3年後、5年後のパフォーマンスを求めているのに今日や明日の騒音はそれこそ邪魔。
同床異夢のマネーが同じ市場で戦っている以上は仕方がないのかも知れない。
「もっと速く走れよ」。
高速道路を法定速度で走っているバスなんかに乗っているとよく思うこと。
しかし、法定速度だから守らなくてはならないし、違反すれば罰金が待っている。
相場も似たようなものだろう。
極限までトレンドを求めて止まない世界。
しかし物事には限界がある。
毎日値幅制限まで株価が動いていたらそれこそ疲れるもの。
「ほどほどに」が肝要なのだろうが、「ほどほどに」では満足できないのが投資心理である。
IR行動の重要性を説く識者は多い。
そのIRの意義とは学問チックに言えば「投資家と経営者の間のコミュニケーション。
証券市場が伝達された情報を用いて行った意思決定の結果である当該企業の評価と
それに基づく株価の適正化を意図したコントロール」とでもなろう。
だが綺麗な言葉で飾ってもIRの本質は伝わらない。
IRの目的は発行企業にしてみれば認知度向上。
究極的には株価上昇とそれに伴う資本増強および株主数の増加。
投資家側から言えば、的確なディスクロージャによる投資リターンの確保だろう。
やさしく言えば・・・。
「発行体も市場もIR活動の本音は株価の上昇=株主の増加と時価総額の拡大」と言える。
学問的にではなく、あくまでも実務的になり、そして綺麗ごとでなく
あくまでも本音で考えれば、何かと難解で悩みの多いIRもそんなに難しいことではない。
学術的な市場関係者が立ち上げたIR像に惑わされると事の本質が見えなくなる可能性がある。
要は企業・事業内容の理解促進、適正な株価の形成、企業の認知度向上だ。
(櫻井)。